[ブックガイド]倫理学の入門書

倫理学の入門書というのは、案外少ない。
ジュンク堂や紀伊国屋書店といった大型書店へ行っても、西洋哲学の入門書は何冊も揃っているのに、倫理学のものは数冊程度……ということがほとんどだ。
もっとも、倫理学は、マイナーな(人気のない)西洋哲学よりもっとマイナーな分野で、その人気のなさに比例して本も西洋哲学のものよりもっと売れないだろうから、わずかながらでも本当に買ってくれるお客がいる見込みがある本でないと、本屋も置かないのだろうと思う。
そうした状況を念頭に、大型書店や大きめの図書館に行けば、置いていない可能性よりも置いてある可能性のほうが高い本を、倫理学全般、規範倫理学、応用倫理学、メタ倫理学の順に紹介する。

倫理学全般

まず、倫理学全般の入門書であるが、〝倫理学とはどういう学問で、どんなテーマを扱い、どういった議論があるか〟ということを概観できるのが、『プレップ倫理学』である。
当サイトでも、だいぶ参考にさせていただいた。
とにかく記述が平易で、学者が書いた入門書にありがちなコムズカシさが少しもないので、倫理学の予備知識がまるでない読者でも抵抗なく読み進められる。
1から倫理学を始めたい人の最初の1冊としてオススメである。

規範倫理学

規範倫理学全般を扱いつつ、初心者が通読できそうな入門書を、私はこれまで見かけたことがない。
規範倫理学の主な理論を解説し、その相互関係を示した『文脈としての規範倫理学』は各哲学者の学説をコンパクトにまとめており、良書ではあるのだが、専門的な概説書であり、予備知識のない初心者のための入門書ではない。
一方、規範倫理学のなかの特定の理論の入門書なら、ある。
その多くは、功利主義の入門書だ。
なかでもオススメなのが、『功利主義入門』である。
本書は、〝まずは「功利主義」という型を身につけ、功利主義への批判を通して他の倫理学理論も理解していく〟という〝トレーニング型〟の入門書である。
〝功利主義がどういう考え方をするのか〟はもちろん、〝倫理学的に考えるとはどういうことか〟という〝模範演技〟を目の当たりにすることができる。

応用倫理学

応用倫理学の〝東西の横綱〟と言えば、生命倫理学と環境倫理学だが、両者が対象とする各テーマの現状を把握したうえで、問題点の整理と倫理学的検討を行なっているのが、『ベーシック 生命・環境倫理』である。
『プレップ倫理学』同様、記述が平易で、親しみやすい文章なので、生命倫理学や環境倫理学を初めて学ぶ読者でもスラスラ読めてしまう。
本書を通読すれば、それぞれの問題をどこから考えていけばいいのか理解できるはずだ。
なお、本書には続編『プラティカル 生命・環境倫理』がある。
こちらは、『ベーシック 生命・環境倫理』を読んで、〝問題をさらに考えていきたい〟と思われた方にオススメである。

応用倫理学の入門書としては、もう1冊、長年読み継がれてきた〝定番〟がある。
現代倫理学入門』だ。
「一〇人の命を救うために一人の人を殺すことは許されるか」「正直者が損をすることはどうしたら防げるか」「他人に迷惑をかけなければ何をしてもよいか」……というような15の具体的問題に関する議論が紹介され、本書を通読すれば、〝現代の倫理学がどういった問題についてどのような議論をしているか〟が把握できる。

メタ倫理学

最後に、メタ倫理学の入門書であるが、最初の1冊として読むには、『メタ倫理学入門』が最適である。
記述は、むずかしい言い回しや専門用語がなく、かなり平易で読みやすい。
内容も、メタ倫理学の核心に関する議論をしっかりと取り上げている。
ただし、分量が多いので、記述は平易だと言っても、内容のレベルが落としてあるわけではなく、理解力が求められるので、読み通すには、やや根気がいる。
逆に言えば、この1冊をマスターすることができれば、メタ倫理学に関する理解はかなり深まるはずだ。




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